2023年、タイヤメーカー大手のDUNLOP(社名:住友ゴム工業株式会社)は研究開発拠点である「住友ゴム イノベーションベース・仙台」を開設。最先端の研究施設である「ナノテラス」を使った研究をはじめ、仙台での活動の内容を岸本氏に伺った。
ナノテラス×コアリションが可能にする、
迅速かつ自在な研究開発
なぜ、神戸に本社を置く私たちが次なる研究開発拠点として仙台を選んだのか。その背景には、長年向き合ってきた「見えないもの」を解き明かしたいという強い想いがあります。タイヤの主原料であるゴムは、内部構造が極めて複雑な「アモルファス」であり、長年その解析は困難を極めていました。私たちはこれまで兵庫県の放射光施設「SPring-8」で「構造(硬X線)」を視る研究を重ねてきましたが、ナノテラスの運用開始により、原子レベルの「化学状態(軟X線)」を視るアプローチが可能になりました。これにより、例えばゴムの劣化原因が酸素なのか、オゾンなのか、あるいは熱なのかといった、これまで分からなかったメカニズムが解明されつつあります。その要因を正確に突き止めることは、タイヤの安全性や耐久性をより高めることに直結しており、確かな製品の進化へと繋がっています。
私たちが仙台に「住友ゴムイノベーションベース・仙台」を開設した最大の理由は、ナノテラスの性能もさることながら、企業が有志連合に加入することで得られる「コアリション制度」の存在です。 競争力のある製品開発には、機密情報を守りながら、必要な時にすぐ実験ができる「タイムリーさ」と「独創性」が不可欠です。ナノテラスはこの両立を可能にする、企業にとって非常に強力な武器となります。
さらに強調したいのが、世界的に見ても稀有な「立地の優位性」です。仙台駅から地下鉄とバスでわずか20分ほどでアクセスできるため、研究員は生活の場と実験施設をストレスなく往復できます。街がコンパクトで、自然や食も身近にある。そうした「住みやすさ」は、研究者が心身ともに充実した状態でクリエイティビティを発揮するために、重要なファクターだと感じています。研究に集中できる生活環境が整っていることは、結果として研究開発のスピードや質を高めることにもつながります。

「仙台には熱がある」。
産学官金の距離感が生む、予期せぬ化学反応
実際に拠点を構えてみて驚いたのは、この街全体が持つ「熱量」です。仙台・東北には、私たちが知らなかっただけで、世界に通じるオンリーワン技術を持つ地域企業や、ユニークなスタートアップが数多く存在しています。そして何より、東北大学の先生方や行政、地域企業との距離が驚くほど近い。困ったことがあればすぐに大学へ相談に行けたり、地元のハブ企業が異分野を繋いでくれたりと、東京にはない濃密でスピーディーなネットワークが機能しています。それに加えて、神戸から来た私たちを「よそ者」扱いせず、スッと受け入れてくれる「懐の深さ」にも感動しました。
私たちは今、東北大学との「共創研究所」設置に加え、地域企業との協業も加速させています。七十七銀行からご紹介いただいたベンチャーキャピタルのスパークル株式会社とは、仙台だけでなく宮城・東北各地の企業を共に巡り、埋もれた技術や課題を発掘する活動も行っています。自分たちの発想だけにとらわれず、外部の知見を取り入れることで、次々と新しい種が芽吹いています。
最先端の「道具」であるナノテラスと、それを使いこなす「コミュニティ」が揃う仙台。この確かなエコシステムの中で、私たちは多様なパートナーと手を取り合い、日本だけでなく、世界に通じる技術をここから発展させていきたいと考えています。