インタビュー

クリエイティブと科学を「媒介(メディウム)」する。
仙台・東部エリアから描く、共創への新たな挑戦。

今野 均

株式会社ユーメディア 代表取締役社長

仙台を拠点に印刷・広告・イベントプロモーションなどを
手掛けるコミュニケーションデザインカンパニー。

仙台市内の旧印刷工場をリノベーションしたイノベーション交流拠点「Communication Design Laboratory MEDIUM(メディウム)」が稼働を開始した。このプロジェクトを手掛ける「株式会社ユーメディア」は、1960年創業の印刷会社でありながら、仙台市と連携し、地域の研究開発環境の向上という新たな挑戦に取り組んだ形だ。今野氏にそのねらいや取り組みの内容について伺った。

パーパスを起点に「点」から「面」へ広げる、
東部エリアでの拠点づくり

私たちのパーパスは「ひととちいきのミライをゆたかにする」ことです。仙台市を含む東北は「課題先進地」とも言われますが、裏を返せば、ここで生まれた解決策や成功モデルは、同様の課題を抱える日本の地方都市へ良い影響を与えられる可能性を秘めています。そして、それを実現するためのクレドとして掲げているのが「ちいきのミライ、わたしたちから」です。誰かがやってくれるのを待つのではなく、自分たちができることを、少し背伸びをしてでもチャレンジしていく。それが私たちのスタンスです。

これまで私たちはイベントなどを通じて街のにぎわいを生んできましたが、一過性の「点」ではなく、恒久的に人が集い、交流し続けるための確かな「拠点」が必要だと考えました。「点」と「点」を結び、やがて地域全体を巻き込む「面」へと広げていく。その新たなフロンティアとして着目したのが、開発余力が残る「仙台市東部エリア」です。

同エリアでは、最新鋭の「新工場」を建設して印刷という「モノづくり」の進化に挑む一方で、役割を終えた向かいの「旧工場」をリノベーションし、新たな価値を生む「コトづくり」の拠点「MEDIUM」として再生させました。確かな技術による「モノづくり」と、新しい交流を生む「コトづくり」。この両輪を回すことで、東部エリアから地域に良い影響を広げていきたいと考えています。

既存資産の価値転換と、異分野の「媒介」。
ここから生まれる新結合

当初からMEDIUMは多様な共創の場として計画していましたが、自社事業だけで埋めるのではなく、もっと地域のために活用できる方法はないかと模索していた時に出会ったのが、仙台市の「ウェットラボ不足」という課題でした。

私たちが仙台市のウェットラボ整備事業に手を挙げたのは、既存の建物が持つポテンシャルを再評価した結果です。これは、既存の不動産資産に新たな価値を見出すアプローチの一つだと考えています。 また、ここは「印刷工業団地」という集積地でもあります。特殊印刷や真空パッキング技術など、尖った強みを持つ近隣企業と連携することで、入居企業のビジネス実装を加速させることも可能です。当社だけが盛り上がるのではなく、MEDIUMを媒介にして団地全体のポテンシャルを引き出していきたいと考えています。

そして、MEDIUMの象徴となるのが、壁を突き抜けて外に半分飛び出している「青い円卓」です。これは「中から外へ発信し、外からも自由に人が集まる」というスタンスの表れであり、かつて技術流出防止のため閉ざされていた工場を、「開かれた場」へと転換させる私たちの決意です。企業や研究者だけでなく、地域全体に開かれた拠点でありたい。そこには、地域の子どもたちが「地元で面白いことが起きている」と感じることで、将来この街で働くことに夢や愛着を持てるようにしたい、という願いも込められています。実際に、すでに夏祭りなどのイベントを通じて地域の方々との交流も始まっており、この場所が新たなコミュニティの核になりつつある手応えを感じています。

立地も大きな強みです。地下鉄東西線を使えば、次世代放射光施設「ナノテラス」がある青葉山エリアから一本で繋がります。私たちの強みである「デザイン・クリエイティブ」と、入居される皆様の「サイエンス・テクノロジー」がこの場所で交わる。異分野の知が媒介されることで、研究室の中だけでは生まれ得なかった「新結合」が起こり、仙台から世界へ新しい価値が広がっていく。そんな未来を、この東部エリアから描いていきたいと考えています。

「見えないもの」を視るために。
ナノテラスと地域の熱量が、イノベーションを加速させる。

岸本 浩通

DUNLOP(社名:住友ゴム工業株式会社)
フェロー
研究開発本部長
先進技術・イノベーション研究センター

「DUNLOP(ダンロップ)」ブランドのタイヤを製造するタイヤメーカー。

2023年、タイヤメーカー大手のDUNLOP(社名:住友ゴム工業株式会社)は研究開発拠点である「住友ゴム イノベーションベース・仙台」を開設。最先端の研究施設である「ナノテラス」を使った研究をはじめ、仙台での活動の内容を岸本氏に伺った。

ナノテラス×コアリションが可能にする、
迅速かつ自在な研究開発

なぜ、神戸に本社を置く私たちが次なる研究開発拠点として仙台を選んだのか。その背景には、長年向き合ってきた「見えないもの」を解き明かしたいという強い想いがあります。タイヤの主原料であるゴムは、内部構造が極めて複雑な「アモルファス」であり、長年その解析は困難を極めていました。私たちはこれまで兵庫県の放射光施設「SPring-8」で「構造(硬X線)」を視る研究を重ねてきましたが、ナノテラスの運用開始により、原子レベルの「化学状態(軟X線)」を視るアプローチが可能になりました。これにより、例えばゴムの劣化原因が酸素なのか、オゾンなのか、あるいは熱なのかといった、これまで分からなかったメカニズムが解明されつつあります。その要因を正確に突き止めることは、タイヤの安全性や耐久性をより高めることに直結しており、確かな製品の進化へと繋がっています。

私たちが仙台に「住友ゴムイノベーションベース・仙台」を開設した最大の理由は、ナノテラスの性能もさることながら、企業が有志連合に加入することで得られる「コアリション制度」の存在です。 競争力のある製品開発には、機密情報を守りながら、必要な時にすぐ実験ができる「タイムリーさ」と「独創性」が不可欠です。ナノテラスはこの両立を可能にする、企業にとって非常に強力な武器となります。

さらに強調したいのが、世界的に見ても稀有な「立地の優位性」です。仙台駅から地下鉄とバスでわずか20分ほどでアクセスできるため、研究員は生活の場と実験施設をストレスなく往復できます。街がコンパクトで、自然や食も身近にある。そうした「住みやすさ」は、研究者が心身ともに充実した状態でクリエイティビティを発揮するために、重要なファクターだと感じています。研究に集中できる生活環境が整っていることは、結果として研究開発のスピードや質を高めることにもつながります。

「仙台には熱がある」。
産学官金の距離感が生む、予期せぬ化学反応

実際に拠点を構えてみて驚いたのは、この街全体が持つ「熱量」です。仙台・東北には、私たちが知らなかっただけで、世界に通じるオンリーワン技術を持つ地域企業や、ユニークなスタートアップが数多く存在しています。そして何より、東北大学の先生方や行政、地域企業との距離が驚くほど近い。困ったことがあればすぐに大学へ相談に行けたり、地元のハブ企業が異分野を繋いでくれたりと、東京にはない濃密でスピーディーなネットワークが機能しています。それに加えて、神戸から来た私たちを「よそ者」扱いせず、スッと受け入れてくれる「懐の深さ」にも感動しました。

私たちは今、東北大学との「共創研究所」設置に加え、地域企業との協業も加速させています。七十七銀行からご紹介いただいたベンチャーキャピタルのスパークル株式会社とは、仙台だけでなく宮城・東北各地の企業を共に巡り、埋もれた技術や課題を発掘する活動も行っています。自分たちの発想だけにとらわれず、外部の知見を取り入れることで、次々と新しい種が芽吹いています。

最先端の「道具」であるナノテラスと、それを使いこなす「コミュニティ」が揃う仙台。この確かなエコシステムの中で、私たちは多様なパートナーと手を取り合い、日本だけでなく、世界に通じる技術をここから発展させていきたいと考えています。